特集《わたしたちの美術館は》

特集《わたしたちの美術館は》
更新履歴 2022年9月29日>1 阿部典英さん 2 古道谷朝生さん

 北海道立近代美術館(近美)が転機を迎えています。開館以来45年を経て老朽化が著しい施設をどのように整備していくか、北海道教育委員会が2022年2月に設置した「これからの北海道立近代美術館検討会議」で議論が続けられています(参考資料)。

 道が行った近美の施設診断によれば、長寿命化に向けた改修が不可欠ながら、収蔵品の一時移転が難しいため「執務並行型改築」の整備はできない。つまり現施設を運営しながらの補修やその場での建て替えではなく、移転新築することが前提となります。一方で、近美に隣接する知事公邸エリアの活用を研究するなかで、その居住区域跡地に近美を移転する案も浮上しました。

 『芸術論評』第14号の後記で書いたとおり、個人的には、近美の前身であった北海道立美術館が建設された当時(1967年)のような、新美術館を待望する熱気が感じられないことが気になります。札幌コンサートホールKitaraは、建設前にパイプオルガン設置運動が起きたことでオルガン付きの音楽専用ホールとなり、札幌文化芸術劇場hitaruは四面舞台を待望する熱心な声があって、道内初の多面舞台が実現しています。道財政の慢性的な厳しさを考えれば、求めもしないものが棚から落ちてくることは考えにくいでしょう。

 そこで北海道アートフォーラムでは、美術館のあり方に関心を寄せる人たちに、寄稿や談話の形で「これからの近美」について言葉を寄せていただくことにしました。近美の現状への意見や「シン・近美」への期待、北海道という立地条件を離れて「理想の美術館」とは何か、など、さまざまな声を定期的に掲載していきたいと思います。題して《わたしたちの美術館は》。第1回は、美術家の阿部典英さん、網走市立美術館館長の古道谷朝生さんです。これを読まれて「私もひと言もの申したい」と思った方からの立候補もお待ちしております。

 「これからの北海道立近代美術館検討会議」は5回目の会合が9月7日に開かれ、新たな近代美術館のミッション案が提示されました。北海道新聞では、検討の過程で「近代」の名称についてさまざまな意見が出ていると紹介されました(「道立近代美術館、名称から「近代」外す? 道教委の専門家会議で浮上 多様な展覧会の実態に合わず」、9月11日朝刊社会面)。「名は体を表す」という言葉もありますが、「近代」を残すか外すかの皮相的な二項対立ではなく「わたしたちの美術館」はどうあるべきかという本質的な視点をふまえて議論したいと考えます。道は、民間企業による近美&知事公邸エリア一帯の活用案を公募しており、近くその結果を公表するとしています(9月末時点で未公表)。

(古家昌伸)

■参考資料 これからの北海道立近代美術館検討会議(北海道教育委員会サイト)

https://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/bnh/korekarakinbi.html

 


 

1 阿部典英さん(美術家、小樽在住)

 そもそも45年前、近美を建てた目的はなんだったのかを思い出したい。目的がふたつあったはず。ひとつは先達の美術を顕彰すること。作品の収蔵や展示を含めてね。もうひとつは、北海道の美術の振興だった。ここ何年かは、この振興の部分が足りないと思う(今年は釧路の羽生輝さんの個展があって、よかったが)。

 かつて近美は、作家にとって刺激になる企画展を美術館主催でやっていた()。たとえば作家50人なら50人を選抜して開催したので、そこに選ばれることがうれしかった。映像をテーマとしたこともあり、若い人の自信にもなった。これらは学芸員や評論家が出展作家を選定した。選ばれるには、まずギャラリーなどでの展覧会を、彼らに観てもらう必要がある。また、委員の側も作家の個展やグループ展をまめに観にきていた。そういう関係がいまは乏しいんじゃないだろうか。

 北海道立美術館(1967年開館)以来、美術館は北海道の美術の起点になってきた。その周りにギャラリーがあって個展やグループ展の活動が行われ、そこから美術館で展示されるような作家が育ってきた。いま北海道の美術が衰退し、弱体化しているのは、その循環がうまくいってないからではないか。美術振興のブレーキになっている。そしてメディアにも、作家を育てる責任は大いにあると思う。

 だから、近美の建物うんぬんの前に、北海道の美術はいまどうなのか、どうすべきなのかを、関係者が集まって真剣に議論しないといけない。たしかに「古代エジプト展」は人が入りましたよ。「国宝法隆寺展」も入るでしょう。これらの巡回展をやったり、道外から注目される作家を呼んだりするのがダメというわけではない。だけどバランスが必要です。

 これから美術館が生まれ変わるとしたら、若い作家にとって勉強になる、刺激になるような新しい種をまいてほしい。たとえば海外の美術館では、小さなギャラリーを併設して、若手の個展をやっている。大きな企画展を観にきた人が、個展も観てくれる。もちろん誰の作品を展示するかは学芸員が選ぶ。予算確保が難しければ、搬入・搬出は自分でやってもらってもいい。学芸員はいま地元にどんな作家がいるかを普段から勉強し、きちんと位置づけする。あとで作家が成長したとき、美術館のギャラリーで展示したことが転機になったというケースも出てくるかもしれない。

 よく予算がないから、思い切ったことができないと言うけれど、作家に寄り添って一緒にやろうという気持ちになれば、予算はなくても工夫はできるはず。資金を集める方法を考える体制を構築するなど、新しい建物を造るだけじゃなくて、そういうことを含めて原点に帰って、いまから北海道の美術のあり方を考え直さなければならないと思います。(談)

(注)具体的には、北海道現代美術展(1978〜82年)やイメージ展(1982〜87年)を指す。北海道現代美術展は「北海道在住及び出身作家の優れた作品を展示して一般の鑑賞に供し、北海道美術の現況を紹介するとともに、作家の顕彰を行い、北海道における美術文化の信仰をはかろうとするものである。」が趣旨だった。イメージ展は「一年ごとにイメージ・テーマを設定する課題展」であり、第1回は「北方(きた)のイメージ」、以降「イメージ道」「イメージ水」「イメージ群」「イメージ響」「イメージ動」のテーマを冠した。(吉田豪介『北海道の美術史〜異端と正統のダイナミズム』より)

 

 古道谷朝生さん(網走市立美術館館長)

 1981年(昭56)、中学3年美術部員であった私が初めて訪れた美術館が北海道立近代美術館でした。開拓記念館、青少年科学館などと共に修学旅行コースに組み込まれていたものでした。特別展は旭川に縁の深い郷土作家『上野山清貢展』であり、常設展には神田日勝や岩橋英遠などがあり、なかでも心の中に残ったのは松樹路人の『M氏の日曜日』でした。女満別の中学から汽車通で網走の旧制網走中学(現・網走南ヶ丘高校)へ通ったことは、私と松樹先生の高校時代と同じであったが、当時の私は知りませんでした。ただ、あの日から空を眺める度に気球が浮かぶ絵を思い出していました。網走市に美術館があることを知ったのは、高校生になってから。『佐藤忠良展』を同館で観て驚きました。その後は寄ることができる美術館があれば訪れたくなりました。旭川では中原悌二郎の作品、函館では田辺三重松などに感銘を受けました。 

 初めての美術館があったから、そこに素晴らしいコレクションや企画展があったから2回目、3回目と訪れることになったし、現在の自分があるとも思います。今年で網走市立美術館は50周年の記念年を迎え、特別展を開催しています。一つ目は『海洋堂エヴァンゲリオンフィギュアワールド』で、モデリングで作られたフィギュアをジオラマにした作品を展示しました。これは、夏休みの期間に親子で楽しんでもらいたいと企画しました。二つ目は『西洋近代絵画展』で教科書に出てくるような著名作家作品を展示しせっかくの50周年記念なので多くの方の「初めて」が増えるようにとの企画です。三つ目は『長谷川誠日本画展』です。郷土出身の日本画家で近年故人となられました。この展覧会は郷土の美術館としてしなければならない展覧会です。 

 初めての美術館見学から40年が経過し、現在自分自身が美術館に勤務して25年が経ちました。身体のあちこちにガタがきており、脚立の昇り降りがきつくなってきました。私より少し若いはずの美術館も躯体やボイラー、配水管等に老朽化が進んでまいりました。また、美術館は博物館ですので資料(作品や作家に関わるもの)が増えてまいります。収蔵庫がだんだん手狭になっているのは当館だけではないと思います。当然、修理、改築なども出てくることも予想されます。

 今後、北海道を代表する道立近代美術館がリニューアル建築されるのであればお願いしたいことがあります。それは、コレクションの充実です。北海道立の美術館は近代美術館、三岸好太郎、函館、旭川、帯広、そして釧路芸術館とそれぞれ特色を持っています。これからも時代に沿ったコレクションの収集と研究、公開をお願いしたい。そのためには広い収蔵庫、保存や修復など研究施設も併設していただきたい。美術館は美術博物館ですので、その時代を映す作品収集は義務であり、収蔵庫やバックヤードはできるだけ広いスペースであってほしい。

 また、作品だけでなく、写真資料や本などの資料を学芸員が調べることができる資料図書館もあるとよいと思います。美術館の職員や学芸員が動きやすく研究や研鑽を積むことができれば、必ず鑑賞する道民に還元できるはずです。そして道民が胸を張り「私達には素晴らしい文化芸術の施設がある」と宣伝してくれるでしょう。

 次に常設展の巡回です。これは既に行われているかもしれませんが、各館の常設を巡回する展覧会です。企画展も面白いのですが、普段と違う館の常設展示を鑑賞すると、また別の興味がでてきて、他の館にも出かけてみようとなります。

 最後に、デジタルの展示室です。映像のアートを展示できる展示室を作れないでしょうか。様々な表現の中で、アニメーションや映像作品が発表できる展示室があると、「初めて」の鑑賞者も増えるのではと思います。以上、私の願望と妄想とでございます。市町村立ではなかなか難しい作品や体験を道立館さんにお願いしたいと勝手に思っております。
 

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