「かわいい」の歴史と理論 02/春木有亮

「かわいい」の歴史と理論 02/春木有亮

(01から続く)

「かわいい」の創始者サンリオ?

 歴史化の意識が希薄であるということは、逆説的に、容易に歴史化をゆるすということでもある。たとえば、2021年4月から各地を巡っている「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」(サンリオ展製作委員会)が繰りだすことばを見てみよう。

2020年で創業60年を迎えたサンリオ。60年の間に450以上のキャラクターを生み出したサンリオの歴史は、そのまま日本のカワイイ文化の歴史と言っても過言ではないでしょう。
いまや「カワイイ」という言葉は世界で通用するワードです。
本展では、サンリオ創業以前の歴史から紐解いていき日本が産んだカワイイ文化の成り立ちや、発展について、サンリオの目線で掘り下げていきます。

「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」オフィシャルサイト(https://sanriocharactermuseum.com/)(2022年2月23日取得)

 同展は、サンリオの歴史に「カワイイ文化」の歴史を重ねあわせる。のみならず、英語版のサブタイトル“The Beginning of KAWAII”のとおり、「永遠の「カワイイ」はここからはじまった」と謡う。つまり、サンリオの歴史に、「カワイイ文化」の歴史のみならず、「カワイイ」の歴史をも重ねあわせる。

 したがって展覧会は、「“かわいい”のはじまり」1というまさに開始地点において、二つの「はじまり」を語ることになる。すなわち一つは、「かわいい」がサンリオからはじまったということ。もう一つは、サンリオが「かわいい」からはじまったということである。

 一つ目のはじまりにかんしては、高度経済成長のさなかサンリオ(前身の山梨シルクセンター)が、「「かわいい」という付加価値」によるビジネスを構想したと説明する2。しかしそれだけでは、「かわいいという新しい価値観を創る」3とは言えない。会社設立の1960年より前も含めた「かわいい」の歴史をも顧みるべきだからだ。

 この一つ目のはじまりの是非は、いずれのちに「かわいい」の歴史を記述するなかで、吟味したい。たほうで二つ目のはじまりを、サンリオ展はこう主張する。

創業当時のサンリオのデザイン決裁の基準は、売れるか売れないかではなく「カワイイか、カワイくないか」だったそうです。利益よりも、カワイイにこだわったのには理由があります。「センスが良い」「かっこいい」と思う判断基準には文化の違いや個人差がありますが、子犬や子供を見て「カワイイ」と思う感性は国境を越えて共通だからです。誰もの気持ちをやさしくするもの。そういうデザインを提供したいとサンリオは考えていたので「カワイイ」にこだわりました。

「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」キャプション
東京シティビュー 2021年9月17日から2022年1月10日まで

 サンリオが「創業当時」から、いわば「かわいい」至上主義であったということによって、二つ目のはじまりは示される。さらに、「かわいい」至上主義を支えるのは、「かわいい」という感性が万国万人に共通だという、いわば「かわいい」のユニヴァーサリズムであるとサンリオ展は説明する。

 はじめに「かわいい」ありき、とでも言い表されるべき、サンリオ世界の創世神話。それはサンリオ内部の物語であるゆえに、一つ目のはじまりより容易に検討できる。以降、サンリオが使う「かわいい」の歴史をたどり、二つ目のはじまりの正当性、ひいては、サンリオ展が謳う「かわいい」神話の正統性を、見きわめたい。

 見きわめのポイントはつぎのとおりである。すなわち、サンリオは、創業当時から「かわいい」至上主義を貫徹しているのか。また同時に、「かわいい」のユニヴァーサリズムに則ってきたのか。さらには、「かわいい」のユニヴァーサリズムはそもそも妥当なのか。

創業当時のことば

 「創業当時」とは、「60年史」を銘打っていることから、サンリオの前身である山梨シルクセンター設立の1960年である。残念ながら、1960年代のサンリオ(山梨シルクセンター)自身のことばを直接に示す資料は、社外では確認しがたく、「「カワイイか、カワイくないか」だったそうです」という伝聞のソースもまた、明らかではない。

 ただ、上前淳一郎の『サンリオの軌跡――夢を追う男たち』(角川書店 1982年(初出PHP研究所1979年))には、創業者の辻信太郎が1960年代に「かわいい」ということばを好んで使ったのではないか、と想像させる報告がある。最初期の製品、いちごシリーズ開発にまつわるエピソードである。

(辻信太郎は)

あるとき、下請業者のひとりが小物につけていた小さなイチゴを見て、あっ、かわいいな、と思った。

 この、あっかわいいな、というのは、五十歳になったいまも辻が失っていない一種の少女的感覚で、ふつうのまともな大人なら気にもとめずに見過ごしてしまうものに、少年少女なら必ず気持ちを奪われるに違いないことを発見する独特の嗅覚を彼はもっている。

――(略)――

 さて、小さなイチゴを、あっ、かわいいな、と思った辻は、それをいろんな小物につけてみた。ハンカチ、手さげ袋、ガラスコップ――。デパートに頼んで置いてもらうと、これが売れるのである。

上前淳一郎『サンリオの軌跡――夢を追う男たち』角川書店 1982年
(初出 PHP研究所1979年) p.37

 また同書で、1960年代にサンリオ(山梨シルクセンター)を支えた社外デザイナーのひとりである水森亜土(1939-)4はこう報告している。

「あたし、それまでにもよその会社のハンカチに絵を描いていたんです。その会社のひとは、あたしの絵には歌が出てくるようなリズム感がある、といってくれました。けれども辻さんは、そういういい方はしなかったわね。ただ、かわいい、かわいい絵だ、ってほんとに女の子みたいないい方だった。直感的に感じるひとなんでしょうね。――(略)――」

上前淳一郎『サンリオの軌跡――夢を追う男たち』角川書店 1982年
(初出 PHP研究所1979年) p.42

 ただ、いずれも同書の取材時点(おそらく1978−79年)での回想であり5、1960年代に辻が、引用のとおりに「かわいい」を使っていたかは確証がない。たほうで、「サンリオのデザイン決裁」にかんしては、『いちご新聞』6に、ハローキティの創案にさいして「かわいい」が用いられたというエピソードがある。

正面に向いているのと,横向きにすわっているのと,2つのタイプを描きました。そして,当時入社したばかりで,私のアシスタントをしてくれていた米窪さんに見せたところ,「ぜったい,こっちがかわいいわ!」と言ったのが横向きの絵だったわけ。

『いちご新聞』1978 年 2 月1日号 p.117 

 この記述は、キティの創案者である清水侑子(1946-)へのインタヴューに基づいている。清水が引く米窪のせりふが正確だとして、それはキティ創案時点の1974年8のことばである。サンリオのデザイン理念を参照できる最も古い資料には、辻が「理論武装」のために執筆し、デパートや小売店に配ったという、1972年のパンフレットがある。

誰からでも愛される、美しくて可愛らしい、またセンスあるものが最高の条件なのです。

辻信太郎 Segmental Merchandising to Love 山梨シルクセンター 1972年
(上前淳一郎『サンリオの軌跡――夢を追う男たち』角川書店 1982年
(初出 PHP研究所1979年) p.133から転載)

 ここで辻は、理想の商品の条件を示すために「可愛らしい」を使う9が、「誰からでも愛される」、「美しい」、「センスあるもの」をも併用する10。1970年代の『いちご新聞』紙上でも、サンリオ(あるいは、サンリオのデザインを使う会社)は、その製品や趣味世界を形容するのに、「かわいい」と並べて多様な価値表現を用いている。

 たとえば、「ロマンチック」、「メルヘン」、「センスいい」、「すてき(ステキ)」「カッコイイ」、「きれい」などである11。またサンリオは、「ゼネラル」、「キュート」、「クレバー」、「ユーモラス」というカテゴリーで、製品デザインを類型化してもいた12

 したがって創業当時の1960年代、広くとってもせいぜい70年代に、サンリオ内で「カワイイ(かわいい)」が使われているとしても、それがいわば絶対的な基準に据えられるほどの覇権をもっていたかどうかは、疑わしい。

「今ほどポピュラーでなかった」「かわいい」

 水森は、自分の作品を辻が「かわいい」と評しがちだったと指摘したが、後年そのとおりに、「かわいい」文化の旗手とみなされていくことになる。そのうえで水森は、2005年のインタヴュー記事で、「かわいい」の使いかたにかんして、こう分析している。

水森 ――(中略)――でも昔は、今の女の子達みたいにモノを見て「かわいい!」なんて言わなかったよね、たぶん。「かわいい」って言葉に出すと何か失われちゃう気がするの。そのかわいさが。映画も展覧会も一人で行くんですけれど、誰かと「綺麗な絵ね」と言った途端に価値が下がっちゃうような気がするの。大事にしたい、胸の中で。映画だって、観ながら「面白いな〜」とか、言わないでしょ(笑)?

――(中略)――

秋山 もう脳を通らないで、目から入って口から出ちゃうんじゃないですかね(笑)。反射的というか。

水森 脳を通らない!いいね。あと「コワーイ!」とかもそう。同じレベルなのかもね。

嶽本 感動した時の感嘆詞が今日本では「かわいい」になってしまっている気もしますね。英語だったら“great”であったり、“fantastic”であったり、そういう言葉って応用が広いじゃないですか。それが日本では80年代くらいからオールマイティの感嘆詞が「かわいい」になった。

秋山具義、嶽本野ばら、水森亜土「特集:青山デザイン会議 “かわいい”感覚を考える」『ブレーン』45巻2号(通号535号) 宣伝会議 2005年2月 p.31

 水森の言う「昔」がいつであるかは、はっきりしない。が、「80年代くらいからオールマイティの感嘆詞が「かわいい」になった」という嶽本の補足13とあわせるなら、1960-70年代とみなすのが妥当であろう。とすれば、この水森の見解は、1960年代に辻が「女の子みたい」に「かわいい」を発していたという水森の思い出とは、ともすれば矛盾する。

「かわいい」という言葉が今ほどポピュラーでなかった時代、サンリオはそれを「メルヘン」と呼んでいました。そして初期のサンリオでは、メルヘン調のかわいい女の子を「チャーマー」と呼び、チャーマーキャラクターはレターセットやカードを中心に使われました。

「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」カタログ 
TMエンタテイメント 2021年 p.101

 水森と同様にサンリオ展もまた、「かわいい」が「今ほどポピュラーでなかった時代」を認知する。しかも、当時サンリオ自身が「かわいい」に代えて「メルヘン」を使っており、「チャーマー」もまたそれに連なる、と言う。この記述もまた、「創業当時」に「カワイイ」が「デザイン決裁の基準」であったという主張と、一見齟齬をきたしている。

 しかし逆に、サンリオ展が言う「カワイイ」は、文字どおりそのことばを指すのではなく、たとえば「メルヘン」によっても表すことができる性質や価値を指すのではないかと想定することもできる。しかし、そうだとすれば今度は、「メルヘン」と「かわいい」が同じ性質や価値を指すと言えなくてはならない。

 先に引用したテクストで言う「初期」とは、テクストに添えられた製品イメージに基づくなら、1970年代なかば以降を指している14。したがってまずは、おもに当時の『いちご新聞』を参照し、「メルヘン」と「かわいい」は同じ内実を持つのかどうかを確かめたい。

文学であるメルヘン

 サンリオは、1967年にギフトブックの出版を始めるが、その中身は「美しい詩やメルヘン」15であった。その展開は、「中学時代は詩が好きな多感な少年」16、あるいは「文学青年」17であった辻の資質に沿っており、ときに辻自身が「お伽の国の物語」18を書いた。つまり「メルヘン」は、第一に、空想的なおとぎ話であり、文学ジャンルの一種を指す19

 サンリオが最初に出版したのは、やなせたかしの詩集『愛する歌』(1966年 山梨シルクセンター出版部)である。サンリオ展はサンリオの出版業にも焦点をあてており、『愛する歌』の奥付から、出版事業にさいしてのいわば抱負が引いている。そこで追求されるテーマも、やはり「美しい」である。

―美しいものには永遠性があり、美しいものを求める心には無限の夢があるのです。しかし、繁雑な現代人の生活の中では、ともすれば、この大切な心を人々は見失いがちなのです。我々は、皆様とともに美しいものを求め、美しい心をはぐくむべく各種の本を出版していくつもりです-

「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」カタログ 
TMエンタテイメント 2021年 p.020

 「美しい」は、いわば情操教育の観点から、文学であるメルヘンに似つかわしいことばの一つであった20。1975年には、広告と、消費者(ファン)との交流を目的にした『いちご新聞』が創刊されるが、紙面には、辻やプロの作家のもののみならず、読者の手になる「詩とメルヘン」も載せられることになる21

「”いちご新聞”ってなると、可愛いけど何となくヤボったいみたい・・・」

「でもまたそこがいいネ。高級車にのってるより、ボロのクラシックカーの方が、カッコいいもんな」

「とにかく、リラックスムードなんだナー。何ちゅうか、ほら落書き帳ってあるじゃない。あんな風」

「もっと品よくいきたいワ。私たちの詩やメルヘンをどんどんのせちゃって・・・」

『いちご新聞』0号(PR版)1975年3月
(1989年12月5日号での引用にもとづく p.33)

 ここには、「いちご」、「可愛い」、「ヤボったい」、「ボロのクラッシックカー(カッコいい)」、「リラックスムード」、「落書き帳」という連結がある。たほうで、それらに対抗するかたちで「品よく」あるための要素が、「詩やメルヘン」だとみなされている。つまり、「かわいい」は、メルヘンとかならずしも一致するわけではない。

メルヘンチック

 こうしてサンリオは、「美しい」文学ジャンルであるメルヘンを、自社製品のコンテンツに導入する。はたしてサンリオの出版物には、上前が言うには、「メルヘン調の絵で彩られた美しい本が多」22かった。ここで「メルヘン調」は、直接には、本に綴られた文学ではなく、本を彩る絵の性質、あるいはスタイルを形容している。

 サンリオ自身もまた、「メルヘン的/風/っぽい」ということばで、ものの性質やスタイルを言い表していた。こうした言いまわしは、いわゆる「メルヘンチック」23と総称できるであろう。ある性質やスタイルがメルヘンチックであるのは、第一には、それがなんらのしかたでおとぎ話のモチーフとかかわっているからであった。

●今回は、前号のポスターで話題集中の作者田中敬子さんに"メドースィート"について聞いてみました。

♥メドースィートってどういう意味?

ちょっとややこしいのだけれど・・・・・・一つはmeadow sweet(メドー・スィート)meadowは牧場とか草地の意味でしょ、sweetは甘いとかかわいいの意味。そこで「牧歌的な草原のかわいい少女」という意味でつけられたの・・・・・・。もう一つは、草原にはえる小さな白い花をつける「草の名前」でもあるの。だから、「草原の少女」と「白い草花」の両方のイメージがだぶってつけられたタイトルがmeadow sweet(メドー・スィート)というわけなの・・・・・・・。

♥とってもメルヘン的ですね。

そう、女の子のあらゆる夢をおっかけてみたいの。たとえば・・・・・・・小鳥さんに歌を習ったり、雲さんたちとお話したり、草原の花々がうすいピンクからうすい紫に変わる時に出会ったり、はだしで野原をかけ回ったり、クッキーに入れる木の実を集めたり・・・・・・etc.

『いちご新聞』1976年5月15日号 p.14

 ここで、「メルヘン(的)」は、「草原」、「少女」、「花」、「女の子」の「夢」、「小鳥さん」、「雲さん」、「クッキー」、「木の実」などが織りなす性質やムードを、総合的に形容していると言える。それに対して「かわいい」は、直接には「少女」を形容する。また、つぎに見るように、「メルヘンっぽい」レタリングなるものもありうる。

文字のおしゃれ

〈レタリングコーナー〉

あなたのつくった詩や物語は、何といってもメルヘンっぽいレタリングで書くのがピッタリ!!

たとえば こんなふうに・・・・

ちいさな

テノヒラでも

しあわせは

つかめる

ちいさな

こころにも

しあわせはあふれる

『いちご新聞』1975年8月15日号 p.2
『いちご新聞』1975年8月15日号 p.2

 こうして「メルヘン」は、おとぎ話のモチーフに直接もとづくわけではない、一定の視覚表現上のスタイルを内包していた。それはおそらく、1973年の『詩とメルヘン』創刊と呼応してもいる。やなせたかし(1919-2013)が主導したこの「抒情詩と絵」24の雑誌を通して「メルヘン」は、よりはっきりとポエジーを獲得し、視覚イメージと結託していく。

メルヘンの世界

 はたして、内容と形式をつらぬく「メルヘンの世界」ができあがる。

メルヘンの世界、忘れたくない……

―(略)―

前々から私の大好きなやなせ・たかしさんの商品がサンリオからでていることは知っていましたが、その他にもキティちゃん、パティ&ジミー、ツィンスター、ロビーラビットなどとってもかわいいのがあったんですね。今までとっても損してた感じ。今ではリトルワールドの2人が1番好きなので2人の商品がもっともっとでないかなァと思ってます。そしていちご新聞にもたくさん登場しないかなあと。ホント、この年にもなって大人げないなァーとは思うけどメルヘンの世界ってどうしてもきりはなせないし、忘れたくない。そんな思いをこれからもどんどんふくらませるため、キレイでカワイイ新聞をお作りくださいね。

宮崎県日向市 高橋多喜子

『いちご新聞』1976年2月15日号 p.7

 ここで『いちご新聞』読者の高橋が言う「メルヘンの世界」は、おとぎ話という文学ジャンルの広がり25であるというよりは、サンリオの製品群が織りなすある全体である26。さらには、ある価値世界でもある。たほうで「かわいい(カワイイ)」はここでも、キティをはじめとする「キャラクター」や新聞(紙面)など、より具体的なものを形容する。

 「メルヘン」が「世界」という全体を形容するのに対して、「かわいい」は、あくまで部分を形容するにとどまる27。つまり「メルヘン」は、「かわいい」や「キレイ」と並ぶしかたで、ものの性質を表すカテゴリーでありながらも、ほかより抜きんでて、ものの集合がなす価値世界をも指示するにいたっていた28

 ただし、「メルヘン」という全体が、かわいいものすべてを包摂しているわけではない。たとえば、読者高橋にとって、「メルヘン」のモデルとなるのはやなせの作品である。また、高橋が一番好きだと言うリトルワールド29は、森に住む「スイスの男の子」と「オランダの女の子」のキャラクターであり、西洋のおとぎ話を体現する。

 つまり、高橋の「メルヘン」が価値世界を指すとしても、当の価値世界は、あくまでおとぎ話のモチーフに根ざしている。逆から言えば「メルヘン」は、もともと固有の時空を備える物語世界と結びつく点で「世界」性格を備えるからこそ、価値世界を指すにいたったのではないか。 

 たほうで、かわいいものは、かならずしもおとぎ話から派生しているわけではない。つまり個々のかわいいもの同士に、有機的なつながりがあらかじめ保証されているわけではない。じっさい当時、「「かわいい」の世界」は、語法上おそらくなしえなかった。ただし「世界」は、「メルヘン」の専有物ではなく、「夢の世界」という言いかたはあった。

●あなたがつくるキティちゃんの夢の世界 キティちゃんの(うた)大募集‼︎

『いちご新聞』1976年4月15日号  pp.18-19

 すでに見たとおり、メドースイートが「とってもメルヘン的」だというコメントに対して作者の田中敬子は「そう、女の子のあらゆる夢をおっかけてみたいの」と応えている。「メルヘン」が「(女の子の)夢」に置き換えられていることに注意したい。「夢」もまた、固有の時空間を備えるという点で「世界」性格を持ち、「メルヘン」と近似する。

 その点で「メルヘン」を言い換えるのにふさわしいことばは、「かわいい」よりも「夢」であったと言えるであろう。「メルヘン」と「かわいい」が、全体と部分という関係をなすのと類比的に、「夢」と「かわいい」もまた、全体と部分という関係をなす30

 なんて言うのか・・・・・・言葉でうまくあらわせませんが、いちご新聞にはいつもいつも "優しい風がふいている"感じがするのです。どこでかんじるのかというとそれはまず"王さまのメッセージ"そして"ゆめの世界へはいっていきそうなカワイイ絵"ほんとに本当にすばらしいのです。――(中略)――

新潟県新津市 M・A(中2)
『いちご新聞』1976年8月15日号 p.7

 ここで「カワイイ絵」は、「ゆめの世界」へのいわば入り口となっており、イマジネイションを喚起して時空の広がりへと誘う31。その点で両者は、表層と奥行きの関係をなしてもいると言える。ただしこれ以降、世界の奥行きそのものが減衰していき、「かわいい」は、奥行きなき表層を移ろい続けることになる。

「メルヘン」の衰退と「かわいい」のパロール化

 1980年を境に「メルヘン」は、『いちご新聞』紙上ではひんぱんには使われなくなる32。たほうで「かわいい」は、1980年代に入っても、具体的なものを形容することはあっても、価値世界を形容することはない。ただ、紙上での「かわいい」の現われかたに、ある変化が起こる。

キティの電卓がでたんだって ウッソー ホント‼︎ キャー、かっわいいー 

『いちご新聞』1982年3月1日号 pp.28-29

 「「ウッソー」、「ホントー」、「カワユーイ」の三語ですべての感情を表す女の子たち」を指す「三語族」が1982年の流行語とされる33とおり、当時「かわいい」は、濫用とみなされるほど人口に膾炙していた。先の「キャー、かっわいいー」の表記は、三語族のイディオムを流用したいわば時事ネタである。

 三語族ネタはこれきりだった。が、おそらくはこのあたりの時期に、「かわいい」の具体的な発話をかたどるという意識が芽生えた。それが1980年代以降の『いちご新聞』紙上に残響していくことになる。すなわち、「かわいい」はしばしば、さまざまな発音のしかたをともなう話しことば(パロール)を転写するかのようなかたちで現れる。

えーかわいい! でもお店には売ってないわ・・・。そーなんです。どれもぜんぶこれはお金にはかえられないよーな、とってもきちょうな品々なのです。

(いちご新聞のエプロン、キティとミミィのげんこう用紙、ツインスターのミラーコーム、キティ・ナプキン&キティ・エプロンなどの写真にそえて)

『いちご新聞』1982年8月5日号 p.20

みんな”ガイコツブラシ”って知ってる? あのカワユイブラシ。

『いちご新聞』1986年2月5日号 p.19  

おいしいー! かわいいー! ハローキティボンカレー

『いちご新聞』1987年3月5日号 p.38

もう食べてしまうほど、キャワイイやつ。 ハローキティヌードル

『いちご新聞』1987年3月5日号 p.39

キーホルダーにもなっちゃうソーイングセットをプレゼント。う〜ん、これは、超(◯でかこみ)便利&超(◯でかこみ)かわい〜い♥

『いちご新聞』1989年10月5日号 p.37

キャーッ、かわいい!けろっぴのマスコット・・・・・・と思ったら、便利なバッグに早がわり!

『いちご新聞』1990年1月5日 p.13

むらたゆりお姉さんにDOKIDOKI2インタビュー きゃ〜わゆ〜い♥♥

『いちご新聞』1994年1月5日号 p.12

こぉんな言葉流行ってるぞぇ‼︎ キティちゃんって、超かわい〜♡

『いちご新聞』1996年2月5日号 p.3

 「かわいい」の書きことば(エクリチュール)上の表現が、あたかも話しことば(パロール)のヴァリエイションを反映するかのように多彩になっていく。それは、発話のさいの響きの感じこそが「かわいい」ということばの意味内容をかたちづくるからだ34。ことばの流行は、個々の発話がことばをつくっていく現場である。だからこそときに、発話行為まるごとが描写されもする35

メリールーはびっくりして、ふり返ってみました。すると、たしかにかわいいリボンの妖精が木の枝にチョコンとすわっているのでした。

「ウァー、かわいい‼︎  はじめまして、リボンの妖精さん。」

『いちご新聞』1980年2月15日号 p.3

いちごのお部屋に一歩入ると、わぁー、かわいい♥ いちごのテーブルに、いちごのベッド、いちごのおふろ・・・・・・。――(略)――

横浜市:たあ坊大好きっ子(小5)
『いちご新聞』1989年3月5日号 p.26

この間もお店に行ったら、かわいいハンカチがぺろぺろキャンディーみたいにいっぱいならんでいたの。おもわず「かわいい‼︎」って言ったら、お姉さんが「それ、わたしが考えたの。よかった!」って言ったの。――(略)――「私もサンリオショップのお姉さんになろうっ‼︎」ってきめたの。とびきりかわいいスマイルで、人気No.1のお姉さんになっちゃうんだ❤ 

青森市:サンリオ大好き!(中2)
『いちご新聞』1989年6月5日号 p.27

思わず「かわいーい!」ってさけんじゃいたくなっちゃうポチャッコが、デビューよ!

『いちご新聞』1989年9月5日号 p.9

 「かわいい」を発する身ぶりが、その状況ごと示されることで、読者は「かわいい」の使いかたを学ぶことからはじめ、かわいいと感じるそのしかたを学ぶ。「かわいい」のパロール化が示すのは、「かわいい」の機能が、たんにものを形容し価値づけることから、その発話行為を軸にしたコミュニケイションへと拡張、肥大しているということだ。

 このことは、「かわいい」の発話のパフォーマティヴな側面が前面化してきたととらえることができるだろう36。「かわいい」を発することは、あいさつのように、発するがために発するという構造にもとづいて、促進される。『いちご新聞』紙面は、そうした「かわいい」のことばの使用状況の変化を映し出している、と言えるであろう37

「かわいい」サンリオキャラクターの確立と、文学の後退

 『いちご新聞』紙上でも、1980年代を通して「かわいい」は、サンリオ製品(とりわけ、「キャラクター」)を評する定番のことばとなっていく。

女の子だけのヒミツのおしゃれ、教えてあげる!それはズバリ、かわいい下着!サンリオからもこんなにたくさんのキャラクターの絵がついたショーツが出てるのよ。

『いちご新聞』1985年12月5日号 p.31

 ここでは「かわいい」ことが、サンリオのキャラクターの絵がついていることと、暗黙のうちに置き換えられている。またつぎのとおり、サンリオのキャラクター(ハローキティ)を用いた他社製品の広告において、キャラクターが製品に付加する価値は「かわいい」であるという暗黙の前提がある。

かわいいから、好き (第一勧業銀行 ハローキティをあしらった「絵本通帳」の広告)

『いちご新聞』1987年8月号 p.18

 すでに見たように38、1970年代から他社製品の広告において「かわいい」は使われていたが、「きれい」や「すてき」などと並列され、サンリオキャラクターを形容し、価値づけることばの一つであった。しかし、第一勧業銀行の広告では、キャラクターの価値のいわば代名詞となり、ほかのことばと交換しがたい位置をもっている。

 こうして「かわいい」は、サンリオのキャラクターたちを総合しつつ評価することばとなり、サンリオキャラクター=「かわいい」の図式が確立していく。さらに1980年代の終わりには、「おもしろい」とともに39、サンリオグッズ全体の「トクチョウ」を表すことばだと自覚的に認知されている。

かわいくっておもしろい‼︎ これ、サンリオグッズのトクチョウよね♥もっちろん、たあ坊やけろっぴのグッズはかわいさピカイチ‼︎ こんなにかわい〜いグッズが、どうして次から次へとでてきちゃうかっていうと・・・、そう、それはそれは、すぐれもののお兄さん・お姉さんスタッフがいるからなんです。

『いちご新聞』1989年12月5日号 pp.8-9

 「かわいい」がかつての「メルヘン」にとって代わったかのようである。このことをサンリオ展は、かつて「かわいい」を「メルヘン」と呼んでいたと言うのかもしれない。ただすでに見たように、1970年代を通して、「メルヘン」と「かわいい」は併用されてきており、その外延は一致しない。

 つまりこの交代劇は、「メルヘン」から「かわいい」へと覇権が移行したということであり、「メルヘン」の内包が「かわいい」に受け継がれたというわけではない。とすれば、サンリオが「創業当時」から「かわいい」を至上の価値としていたとは、むしろ言えないことになる。

 にもかかわらず1990年代に入ると、サンリオキャラクター=「かわいい」の図式が、依然踏襲され続ける40のみならず、過去に対しても、投影されるかたちで適用されていく。サンリオがまさに創業以来「かわいい」を志向していた、という歴史がつくられていき、のちの「60年史」の前提が準備されることになる。

1960年、サンリオが生まれて以来、いろんな小物に、かわいいキャラクターが登場するようになったの。

『いちご新聞』1990年5月5日号 p.5

 こうしてサンリオキャラクターの価値が「かわいい」に収斂していく流れは、サンリオ社のイメージがキャラクターに収斂していく流れと軌を一にしている。すなわち、1970年代後半に「サンリオの奇跡」41と呼ばれた経営面での成功は、実質上、キャラクタービジネスの成功を意味していた42

 たほうで1980年代以降、成功の裏面で、「詩とメルヘン」が相対的に後退しはじめる。つまり、「メルヘン」から「かわいい」への移行は、たんにことばのうえでの変化であるだけではなく、サンリオにおけるいわば文学の覇権の低下を告げる徴候だと、見ることができるであろう。

(03に続く)

春木有亮(北見工業大学准教授)


脚注

  1. 「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」カタログ, TMエンタテイメント, 2021年, p.013
  2. 「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」カタログ, TMエンタテイメント, 2021年,pp.013-014
  3. 「サンリオ展」カタログ2021, p.015
  4. 1960年代のなかばになると、水森亜土、やなせたかし、佃公彦、内藤ルネ、田村セツコら当時の人気イラストレーターたちの絵を使ったアイテムが話題となります。愛らしいイラストには、サンリオがのちに「センチメント」と呼ぶ、詩的でユーモアに富んだ言葉がそえられました。

    「サンリオ展」カタログ2021 p.016

     水森たちのイラストは、「センチメント」という「言葉」と結託していた。たほうでイラストそのものは「愛らしい」。が、この形容詞は、2021年のサンリオ(展)がつむぐことばである。当時において、「かわいい」が製品の価値を支える基準であったかどうかは、やはりさだかではない。

  5. あとで見るとおり、1970年代末には、「かわいい」ということばが流行しはじめていた。
  6. 『いちご新聞』は、サンリオの広告と、製品の消費者(ファン)の交流を目的にしたタブロイド紙であり、1975年に創刊された。発行元は、サンリオ社内のいちご新聞編集局であり、紙上のことばは、他社の広告、被取材者などのことばをのぞけば、サンリオのものであるとみなしてよい。
  7. 清水美知子「『いちご新聞』にみる〈ハローキティ〉像の変遷」(『研究紀要』関西国際大学人間科学部 2009年)を通じて参照。
  8. キティの創案は「昭和49年の秋頃だと思う」と、清水は述べている(『いちご新聞』1978 年 2 月1日号 p.11)。
  9. 厳密には、「可愛らしい」と「かわいい」は異なるが、ここでは「可愛らしい」を、「かわいい」に近似したことばという位置づけでとりあげる。「可愛らしい(かわいらしい)」と「かわいい」のちがいにかんしては、いずれ論じたい。
  10. また辻が、最初期のアイデア製品である「花模様」つきのぞうりにかんして、「花」がぞうりに付加する価値を「きれい」と表現しているという報告がある(ただし、「きれい」が、辻のことばそのままであるかどうかは、確実ではない)。

    「花はきれいだ。そのきれいな花をつければ、ぞうりをはくことが楽しくなるはずだ。そうしたら、きっと良く売れる。人を楽しくさせることで、我々ももうかる。」

     これがサンリオの経営哲学の一つになる“付加価値商法”のスタートである。

    西沢正史『サンリオ物語 こうして一つの企業は生まれた』サンリオ 1990年 p.40

  11. 春になって、

    お陽さまニコニコシーズンになると、

    なぜかおへやのもようがえが

    したくなりますね。

    カーテンをさっそく

    かわいい いちごのプリントにかえたり・・・・

    ―(略)―

    ロマンチックな白いイス!

    メルヘンポイみどり色!

    かわいい赤!

    おへやはきっと、見ちがえちゃうわ。

    ただ平らにぬるだけじゃなく、

    絵が描けたら、サイコーにすてき!

    『いちご新聞』1975年5月1日号 p.6

    “フレンド・ファッション” それは、レモンティーンのための可愛いい、あま〜いカジュアルファッションです。

    ――(中略)――

    知らないとなりの女の子に「そのお洋服可愛いいね」「とってもセンスいいわ」と気軽に話しかけちゃいましょう。

    『いちご新聞』1975年5月1日号 p.7

    カッコイイ時計バンドのつくりかたをおしえちゃいますデス。

    『いちご新聞』1975年6月15日号 p.6

    編集局につれていってくれたけど、編集局って編集局みたいじゃなくて、とてもカワユイの。

    ――(略)――

    東京都品川区 篠田めぐみ

     このあいだの土曜日、いちご新聞の編集局に行ったら、サンリオの会社中を見学させてくれました。デザイン室で、パティ&ジミーをかいている前田ロコさんに会っておはなししました。――(略)――あんなきれいなところで、こんなステキな絵がかけるなんて憎らしいくらいにうらやましい。

    ――(略)――

    埼玉県川口市 大橋加代子

    『いちご新聞』1975年10月15日号 p.3

    クリスマスの贈り物にそえたり、グリーティングカードにしたら、とってもステキよ。(フジカラー・マスコットプリントの広告)

    『いちご新聞』1977年8月10日号(「サンリオ展」カタログ2021 p.172)

    きれいな額に入れたり、フォトスタンドに入れてお部屋に飾れば、かわいいインテリアになるわね。(フジカラー・マスコットプリントの広告)

    『いちご新聞』1977年8月10日号(「サンリオ展」カタログ2021 p.172)

  12. (略)――デザインは、辻にいわせるとゼネラル、キュート、クレバー、ユーモラスの四種類に分類できる。これは、ホールマークのカード分類法からヒントを得たものだが、辻によるとどんなデザインでもつねにこの四つに分けてしまうことができるという。――(略)――

     キュートは、かわいい、ということで、年齢を越えて誰にも愛らしい感情をもたらすデザインだ。パティ・アンド・ジミーはこのキュートにあたるといえる。

    上前淳一郎『サンリオの軌跡――夢を追う男たち』角川書店 1982年(初出 PHP研究所1979年) p.117

    グリーティングカードは、花や風景など写実的な「ジェネラル」、くすっと笑える「クレバーユーモラス」など、ホールマーク社仕様の呼び方でジャンルわけされていました。

    「巻頭大特集 かわいいだけじゃない サンリオ60年 なかよしの絆」 『MOE』503号(2021年10月号) 白泉社 p.19

  13. のちに見るとおり、1980年代に「かわいい」が流行したことに鑑みれば、嶽本の見解は妥当である。
  14. 引用したテクスト(「サンリオ展」カタログp.101)に添えられた製品イメージは、八千代チャーマー(1974年)、タイニーポエム(1975年)、ボタンノーズ(1978年)、ラビーデイズ(1978年)、フェアリーチャーマー(1979年)、プチアンジュ(1980年)、ウィーメリールー(1980年)などのものである。
  15. 上前『サンリオの軌跡』1982(原版1979) p.63.
  16. 上前『サンリオの軌跡』1982(原版1979) p.16
  17. 上前『サンリオの軌跡』1982(原版1979) p.53
  18. 上前『サンリオの軌跡』1982(原版1979) p.63
  19. メルヘンの原語はドイツ語Märchenであるが、その分析的な語義は、小さな(chen)物語(Mär)である。
  20. 『いちご新聞』1989年2月5日号(p.33)の童話作家の立原えりかへのインタヴューでは、「美しい」がテーマになっている。また、同じペイジに載った読者の夢コーナーでは、「ステキな」、「夢のある」、「かわいい」、「あったか〜い感じ」ということばが、メルヘン、あるいは童話を形容している。

    Qえりか先生のように、美しいお話や言葉が思いつくようになるにはどうしたらいいの?

    A美しいことを一生懸命考えることね。そして、自分も美しくしておかないといけないわ!外側ではなくて、内側、つまり心が美しくないときれいなお話はかけないと思うの。

    Dream 8 ステキなメルヘン作りたい だから 童話作家してみたい

    夢のある、かわいい童話を作ってみたい! (仙台市:金野真樹子)

    小さい頃から絵本が大好きだったの。私も、あったか〜い感じの童話を作って、絵本にしてみたいな!(広島市: 石原由紀)

    『いちご新聞』1989年2月5日号 p.33

     また、『いちご新聞』1975年6月15日号(p.9)の「いちごの王さまとおはなししよう」コーナーで辻は、「美しい心」をつくるためには知識と教養が要ると説いている。

  21. みなさんの身近かな出来事、ニュース、アイディア、おしゃれの工夫、おもしろいあそび、詩やメルヘン、イラスト何でもいいんです。もっともっと送ってください。

    *「身近か」は、原文のまま

    『いちご新聞』1975年5月1日号 p.8

    川崎市の田口育子さんが処女詩集EYEを自分で出版されました。田口さんは17才で、全部自分で創作し、編集しました。入手希望の方は、直接田口さんに連絡して下さい。1部200円です。

    『いちご新聞』1975年6月15日号 p.6

    ●あなたがつくるキティちゃんの夢の世界 キティちゃんの(うた)大募集‼︎

    『いちご新聞』1976年4月15日号 pp.18-19

  22. 上前『サンリオの軌跡』1982(原版1979) p.63
  23. 「メルヘンチック」ということば自体をサンリオは多用しているわけではないが、たとえば下記の用例がある。

    メルヘンチック♥ライフのおすすめ

     暖かなお部屋の中で、キラキラ光るスパンコールや白いレース・毛糸玉にかこまれていると、女のコの夢が、ぷわりぷわりうかびます。そんな冬の日は、思いっきりメルヘンチックにいきませんか。

    『いちご新聞』1980年2月15日号 p.16

  24. 「サンリオ展」カタログ2021 p.022
  25. 下記の「メルヘンの世界」は、端的に文学ジャンルの広がりを指していると言える。

     いちごの王さまがあなたにおくるメルヘンの世界――「妖精フローレンス」ぜひ読んでくださいね!!

    『いちご新聞』1980年3月1日号 p.22

  26. サンリオもまた、「メルヘンの世界」を自身の代名詞のように使っている。

    メルヘンの世界・サンリオの舞台裏にご招待 サンリオ社内探検

    『いちご新聞』1979年8月15日 p.12

     またサンリオ本社は、「おとぎの国」(「不景気を吹き飛ばした『大当たり十人衆』(子供に夢を売り"いちご王国"で二百億円 サンリオ辻信太郎氏)」(『週刊サンケイ』26巻1号(1977年1月6・13日合併号) pp.176))、あるいは、「童話の世界」(澤野広史「話題の企業研究「サンリオ」商法の正体――「キティちゃん」の王国に君臨する辻信太郎の甲府商人道」(『宝石』第6巻3号(1978年3月号) 光文社 p.209))などと描写されてもいる。

  27. 宮台らは、「かわいい」の内実を、①人間工学的、②ロマンチック、③キュート、の三つのカテゴリーに分類している(宮台真司、石原英樹、大塚明子『増補 サブカルチャー神話解体――少女・音楽・マンガ・性の変容と現在』ちくま文庫 筑摩書房 2007年(原版 1993年) pp.120-122)。

     そのうち、②は、「自分や自分を取りまく周囲のすべてを「〜のような」という一定の主観的色彩によって統一的に彩る」という「自分と〈世界〉のロマン化」であるとし、「サンリオのファンシーグッズの中の「オールド・ロマン系」」をその具体例に含めている(宮台ほか『増補 サブカルチャー神話解体』2007(1993)p.121)。

     たほうで③を、「個々のモノ・こと・人に関する、ある種の「子ども的」な属性――愛らしさ・無邪気さ・明るさ・活発さ・無垢・文脈からの自由など――を志向するもの」とし、「60〜70年代前半に流行したサンリオの「いちごシリーズ」や水森亜土のイラスト」、「今や国際的キャラクターとなったサンリオのキティちゃん、最近では、けろっぴやたあ坊」を具体例に含める(宮台ほか『増補 サブカルチャー神話解体』2007(1993)pp.121-122)。  本論文が言う、世界を彩る「メルヘン」と、より具体的なものに見いだされる「かわいい」は、宮台らの図式で言えば、「かわいい」内部の二つのカテゴリー、「ロマンチック」と「キュート」に組みこまれることになるであろう。

  28. たとえばつぎのばあいも、「メルヘン」は、折り紙によって起ちあがる趣味空間を指しているという点で「世界」らしさを含んでいる。

    とても楽しい折り紙のメルヘンをあなたのお部屋に演出してみましょう。

    『いちご新聞』1975年8月1日号 p.13

  29. カールとニーナ

     現在、商品は出ていないが、リトルワールドのキャラクター。スイスの男の子、カールとオランダの女の子、ニーナ。作者はスモールピープルの大友さん。

    『いちご新聞』1978年3月1日号 p.22

  30. 下記のグッズ紹介の記事では、「センチメンタル」は「思い出」を、「ロマンチック」は「夢」を形容するのに対して、「かわいい」は「小物」というより具体的なものを形容している。

    今 深いふかーい秋の中・・・

    まるで全体が、大きな黄金色の夕陽に、すっぽりとつつまれてしまったような秋の町・・・・・・。あざやかな木々の色どりで、意外なほど明るい町なみとうらはらに、心は不思議なくらいシンとしています。そんな心をよぎるのは、センチメンタルな思い出と、ちょっぴりロマンチックな明日への夢・・・・・・。すこし大人になったみたいな気分で手にするファンシーな小物は、いつもちょっとちがって見えます。

    『いちご新聞』1980年10月15日号 p.26

  31. 「かわいい絵」は、たとえば、「詩とメルヘン絵本」シリーズの絵に対しても使われている。下記では、ほうきに乗った少女の魔法使いの絵が引かれている。

    「小っちゃな魔法使い」っていう本、もう読んだ? なかえよしをさんの文に、上野紀子さんのかわいい絵が描かれているすてきな絵本ね。実は、これは"詩とメルヘン絵本"シリーズ第1作なんです。

    『いちご新聞』1978年2月15日号 p.11

  32. 「メルヘンチックライフ」(『いちご新聞』(以下、同紙)1980年2月15日号 pp.16-17)、「メルヘンの世界」(1980年3月1日号 p.22)。以下は1981年以降のまれな使用例。

     「うわ〜っ!あこがれちゃうな。メルヘンの世界。えりか先生!ボクも、妖精や魔法を信じてるんだ。」(童話作家立原えりかへのインタビュー記事)(1989年2月5日号 p.33)。「自然の中のメルヘンの国」(1991年に大分県に開園したサンリオのテーマパーク「ハーモニーランド」に対して) (1991年7月5日号 pp.18-19)。「メルヘンで賞 全体がうすむらさきで、ふわん・・・」(読者作の絵に対する評)(1994年1月5日号 p.28)

     また、「メルヘン」ということばとは別に、80年代以降、牧歌的な視覚イメージ(絵)や、おとぎ話自体の掲載はある。が、その頻度は70年代に比べて下がる。

     「いちごの王さまと詩の世界へ」第10回目(2004年5月10日号 p.34)で、『詩とメルヘン』休刊が告知される。その反動ともとらえることができるが、2005年8月10日号で、辻作の連載メルヘンVol.1『森のメルヘン〜白い小鹿 ミエル』(p.12)が始まる(2006年3月10日号まで連載。その後、2006年5月10日号から2007年1月10日号まで、『海のメルヘン 潮風のマリー』が連載)。

     また同号で、「この夏、西銀座ギフトゲートが“メルヘンの森”になって、リニューアルOpenしたよ!」(p.13)という広告、2006年2月10日号に「サンリオピューロランド 15周年記念ライブショー いちごの王様原作 森のメルヘン〜愛は永遠に〜」の広告、2007年2月10日号には、「サンリオピューロランド 新パレード誕生 素晴らしいメルヘンの世界へ Believe」(p.10)の広告が掲載される。

     この時期の「メルヘン」を補強する動きも含め、おそらく「メルヘン」志向の辻に、「メルヘン」にかかわる一定の製品コンテンツを保持したいという意向があったと考えられる。

  33. 『明治・大正・昭和の新語・流行語辞典』第一版 三省堂 2002年
  34. 春木有亮「「かっこいい」は、カックイイ――「流行語の流行」と、感じることばの生成」(『北海道芸術論評』第13号 北海道芸術学会 2021年 pp.3-98) pp.25-28を参照。
  35. ここで、発話行為を描写することとは、発話主体と発話の情況が明示されていること、あるいは、「かわいい」と言った、叫んだ、という風に発話行為が直接に記述されていることを指す。また総じて、発話行為を描写するさいには、発話内容が「」でくくられる傾向がある。
  36. 春木有亮「「かっこいい」は、カックイイ――「流行語の流行」と、感じることばの生成」(『北海道芸術論評』第13号 北海道芸術学会 2021年 pp.3-98) pp.25-28を参照。
  37. 1970年代にも下記のとおり、言語行為を示す記述はある。ただ、たとえば感嘆符がない(感嘆詞風ではない)という点に鑑みても、パフォーマティヴな側面は1980年代の記述ほどには前面化していない。

    ペンネーム いちごケーキ

     私がいちご新聞を買いにお店へ行ったら、小さい女の子が1人でいたんです。どうしたのかなって、その子の方を向いて見ていたら、私に"にこっ"と笑ってくれました。そして私がいちご新聞を買うと、そばへ来て「おねーちゃん、なに?」ってきいて「かわいいねっ」っていってくれました。――(中略)――

    『いちご新聞』1976年10月1日号 p.2

  38. 注11を参照。
  39. ここで「おもしろい」が挙がっているのは、「漫才ブームなどの影響もあり、80年代にはおとぼけキャラクターに人気が集ま」(「サンリオ展」カタログ2021 p.172)ったことと、関係していると言える。
  40. 私は男の子でもなく女の子でもなく、サンリオのキャラクターに生まれ変わりた〜い! だってかーわいいだも〜ん♡

    『いちご新聞』1991年4月5日 p.31

  41. 上前時淳一郎「サンリオの奇跡――初めて出た衝撃の全内幕」『週刊現代』20巻23号(1978年6月8日号) 講談社
  42. とにかく今、小・中学生を中心とした子供の間で、サンリオの商品は、すさまじいブームを巻き起こしているのだ。そのサンリオの"商品"の一例が、スヌーピーのマンガがついたバッグ、といえば大方が納得。

    ――(中略)――

    いずれにせよサンリオ、来年は売り上げは三百五十億円、配当は十割をやるそうだが、このところサンリオを訪れるのは子供ばかりではなく、大人も多い。森永製菓、三井製糖、ニチバンの商品にサンリオのキャラクターをつけたところ、爆発的な売れ行きになり、これに目をつけた大会社が業務提携の申し込みに殺到しているのである。

    「不景気を吹き飛ばした『大当たり十人衆』

    (子供に夢を売り"いちご王国"で二百億円 サンリオ辻信太郎氏)」

    『週刊サンケイ』26巻1号(1977年1月6・13日合併号) pp.176-177

     「サンリオ」――といっても大方の読者はご存じないだろう。

    ――(中略)――

     もっともサンリオの商品のほうは、ベールの陰でどんどん生活の中に浸透してきている。

     読者に四、五才か小学生ぐらいのお嬢さんがいらっしゃるなら、いちど注意して机のまわりを見ていただきたい。犬や猫のマークがついたハンカチ、消しゴム、鉛筆やノートが、ひとつやふたつは必ずあるはずだ。

    澤野広史「話題の企業研究「サンリオ」商法の正体――「キティちゃん」の王国に君臨する辻信太郎の甲府商人道」『宝石』第6巻3号(1978年3月号) 光文社

     サンリオの売上構成比は、同社の伸びと比例、今はグリーティング・カードは全体の三%にも満たない。キャラクター商品が大きく伸びており、全体の八十五%を占めている。そして『いちご新聞』『詩とメルヘン』など、子ども向け、女性向けの出版だが、こちらのほうはたいしたことはない。出版物の多くは贈呈用である。

    坂口義弘「続・現代虚人列伝 辻信太郎――"優しさ"を売って"ブス"を雇わない甲州商人」『現代の眼』22巻5号(1981年5月1日号) p.230

     消費財メーカー各社が差別化に試行錯誤している中でサンリオはハローキティ、タキシードサムなどの自社キャラクターを付加することで、どんな有望分野との提携も進出も可能とする柔軟な体質を持ち合わせた企業である。

    「無限の拡がりみせる"生活文化"の主軸――サンリオのキャラクタービジネス」

    『ヤノニュース』1985年7月25日号 矢野経済研究所

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